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黒い頁の本「上」

・黒の教典という名前が出てくる前の話を少ししよう。
・七釜戸市の私立七釜戸中学には古い図書館があり、
 学校設立時に地元の旧家から寄贈された古い洋書が
 多数所蔵していた。
・誰も開かないはずの本、2002年の夏、開いたのは僕だった。



「飯田原、図書館に新しい先生来たらしいよ」
 友達の荻窪は、意気揚々と教室に駆け込んでくると、僕の前まできてそう叫んだ。
「そんなに大きな声しなくたって、聞こえるよ」
 荻窪の様子を見れば、その先生が男が女かすぐに分かった。
 ませているのか判らないけど、荻窪は女の先生が来ると、お祭りみたいに大騒ぎをした。
「なーなー、見に行こうぜ」
「どーしてさ」
 今は授業と授業の間の10分休み、しかも、あと半分ぐらいしかないんじゃないだろうか。
 今から図書館までいって、その新任のせんせいをちょっと見て、またここまで帰ってくるなんて、
体力のありあまった、荻窪じゃなきゃできそうにない。
「なーなー、いこうぜー」
 だけど、野球部のイガグリ頭を僕の方へぐりぐりしてくる彼が僕が厭がったってきっと
連れてゆくに違いないんだ。
「行っても、すぐに戻ってくるんだよ?」
「それでも、いいからさー」
 荻窪はちょっとも譲ろうとしない。本当に間に合わなくなってから、行くぐらいならと、
僕は席を立った。教室をそのまま出ると、荻窪はもう随分先を走っていた。
「コラッ、廊下を走るな」
 教師が、走る荻窪を怒鳴りつける。
「ただ今、高速移動中です」
 と、はしりながら断言する荻窪を追いかけて走り出した。
 だが、一人目は逃がしても、二人目は捕まえるのが先生ってものだ。
「先生、僕、捕まえてきます」
「お、おい、ちょっと」
 と、戸惑っている先生をほったらかして、荻窪が曲がった廊下の角を僕も続いた。
 図書館は教室棟から渡り廊下で管理棟の二階にある。途中、放送室や会議室があるけれど、
前を走り抜けるのは、正直ひやひやした。
 僕たち生徒はほとんど管理棟には来ない。
 図書館があるから、来てもいいんだけれど、前の先生はとっても厳しくて、ちょっとした事で注意された。
 うちのクラスでも、図書館で本を借りた事のある生徒は数えるほどしかいなかった。
 管理棟の廊下は日当たりが悪くて、昼間でも蛍光灯がついていないと薄暗い。
 図書館は廊下の突き当りにあって、入口の扉が半分ぐらいガラス張りで中の様子がうかがえる。
 おかげで、図書館に差し込んだ光が、廊下にいる僕たちの方に向かってまっすぐ差し込む。
 光の中に向かって歩いているような気分になった。
 光に向かっているはずなのに、不安定で良くないものに近づいているような気がした。
 もちろん、次の授業まであんまり時間がないせいかもしれない。
「なぁ、どんなかな?」
 荻窪はそんな僕の気持なんて全然関係なしで、目的の先生がどんな人かって、一人で盛り上がっている。
 どうしてそんなに盛り上がれるのか不思議だ。
「あれ? いないのかな」
 入口のガラスの部分から除くと、中は正午近くの高い日が差し込んで、見た目にとてもあたたかそうだ。
 ここから見ただけだと、司書机や本棚の影が見えない。もしかしたら、中にはいないかもしれない。
「きっと、いないんだよ。もどろうよ。次の授業が始まるって」
「だけど、ほら」
 先生がいない授業中の図書館は大抵鍵が掛っている。
 ところが、荻窪がノブを掴んで、そっと扉を押すと音もなくスッと開くのだ。
「なぁ、入ってみようぜ」
「やめとけよ。見つかったら面倒だって」
 荻窪は一緒に来た僕にケイイを払って、意見をきいてくれる。
 だけど、聞くだけで僕が何を言ったって彼は本能のままだ。
 少しだけすかした扉から、するりと荻窪は図書館の中に入る。
 ここで戻るのが正解かもしれないけれど、あとで、飯田原は逃げた、とかなんとか吹いて回る荻窪の姿が想像できた。
 後を追って中に入ると、荻窪はもう本棚の影から、図書館の奥の方の様子をうかがっていた。
 荻窪が手で、こっちにこいよ、と読んでいる。
 近づくと、女の人の声が聞こえる。どうやら、独り言のようだ。
「………やっぱり、ここにもあったわ………」
 その声と一緒に本のページをめくる音がする。
 その通りは、この学校が出来た時に寄贈された難しい外国語の本が並んでいる棚があった。
 そんなところに何か隠されているんだろうか。
「あっ」
 短い声と何か重たいものが床に落ちる音。
 次の瞬間、荻窪の体がさっと僕のそばから音の方へと風のように駆けて行った。

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2013.03.30 | コメント(0) | トラックバック(0) | 黒の教典

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