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黒い頁の本「中」

・七釜戸中学校の図書館に新任の先生がやってきた。
・親友の荻窪はどんな先生か見に行こうという。
・10分休憩が半分終わって、僕と荻窪は図書館に向かって
走り出した。


「先生、落ちましたよ」
「えっ」
 荻窪はそういって、本を拾おうとする。
 急に現れた荻窪に先生はびっくりして、あっけにとられてる。
 そして、ブラウンと黒のまだら模様の長い髪が肩甲骨ぐらいまである新任の先生と、
 荻窪が拾おうとした本の開かれた変なページを目を見つけた。
「あれ? このページ、テレビの砂嵐みたい………」
「ダメ、そのページを見ないでっ」
 その先生はレンズの細いメガネが落ちそうなぐらいの勢いで、荻窪から本を取り上げる。
 そばかすの後が少しあって、おとなしそうな風合の顔をしていた。先生というだけで、僕はすぐに威圧されてるような気分になるけれど、この先生にはそういう部分がなかった。
 落ちそうになったメガネを反対の手で押し上げながら、窓際の腰ぐらいの高さの棚の上に置いた。
「もうじき、授業よ。教室に戻らないと授業がはじまっちゃうわよ」
 だけど、荻窪は返事もしなかった。
 女の先生が来るといって、はしゃいでいた荻窪は両腕をだらんと垂らして、背中を丸め、肩で大きく息をしていた。
 最後には頭を下げて、先生の膝のあたりを見ているんだろうか、僕からじゃ荻窪の後頭部が見えるだけで、どんな顔をしているかわからない。
「ちょっと、大丈夫? 君っ」
 だけど、その時、先生が荻窪の肩を掴んで、顔を見ようとしたその時だ。
 唸り声とも叫び声とも言えないような、ただ、あー、あーと言っているだけなのに人間の声じゃない音がした。
 最初は壊れたサイレンかと思うような音は、荻窪が上げた声だった。
「やば………」
 何か言いかけた先生の声はそこで途切れた。
 荻窪が振った左腕が先生を吹き飛ばした。後ろから見ていた僕にはそう見えたんだ。
 先生は勢いよく吹きとばれされて、奥の壁際の本棚に背中をぶつけて呻いている。
「おいっ、荻窪何やってるんだよ」
 荻窪の異変とっさに声をかけた。
 160センチぐらいの荻窪が180センチはある先生を片腕で吹き飛ばすなんてあり得ない。
 いくら、荻窪が野球部でエースでも、無理に決まってる。
 だけど、声をかけたのが良くなかったのかもしれない。
 振りかえった荻窪の顔は酷く歪んでいた。目は瞳がはっきり丸く見てとれるほど見開かれていて、口は力が抜けたように開かれていた。その口からはあー、あーとかすれたサイレンのようなうめき声が漏れ出している。
「お、荻窪……ど、どうしたんだよ………」
 僕の言葉なんか聞こえない素振りで、一歩また一歩と僕の方へと近づいて来る。
 本当だったら、逃げなくちゃいけないのに、体が言うこときいてくれそうもない。
「そこのガキっ、早くにげなっ」
 通路の奥から荻窪の唸り声を打ち消すような声が僕の体に電気を流す。
 次の瞬間、振りかえりながら廊下への扉に向かって走りだした。
「うぅぅ、あぁっ」
 荻窪の抑揚のついた叫び声。今までとは違う。
 そしたら、次の瞬間、半開きになっていた入口の扉が、ドンッ、と恐ろしく重たい音を立てて勢いよく閉まった。
 だめだ、ここからは出られない。
 試したわけでも、誰かに言われたわけでもないけれど、心の中で反射的に思った。
 目の前で絶たれた逃げ道を背にゆっくりと振り返ると、荻窪がゆっくりと距離を詰め始めていた。
 変わり果てた荻窪が腕をビュンと音がするほど振ると、とんでもない事が起きた。
 近場の本棚に納められていたハードカバーの本が、何かにはじき出されるように次々と飛び出した。
「ど、どうなってるんだよ………」
 僕がそんな事をつぶやいたって、誰も答えはしない。
 本棚から飛び出した本達は、床には落ちずに、そのまま舞い上がる。
 そのまま、水族館で見たような巨大なイワシの群れのように図書館の天井近くで渦巻き始めた。
 まるで、狂った荻窪が振るう腕に合わせて舞い踊るように、本は右から左、上らから下と生き交っている。
「ち、狂信者(ファナティック)か………」
 いつの間にか復活した新任の先生は、ジャケットのボタンを外し投げ捨てると、白いブラウスの裾をまくり上げた。
「あぁ、うぅ?」
 先生の復活に気がついた荻窪は、首だけをぐるりと後ろに向けて、右に傾げた。
「まったく、仕事が………」
 先生はさっきまでの印象もジャケットと一緒に脱ぎ捨てたように、恐ろしい目つきで荻窪を睨みつけていた。
 僕はただ見ている事しかできない。その時、この先生が普通の先生じゃない事と一緒に悟ったんだ。
「あああぁっ」
 荻窪が雄叫びとともに腕を振る。
 その腕に従うように、宙を舞う本の群れは一斉に先生に襲いかかる。右から左から、そして、真上から。
 そこにいたのが僕だったら、一瞬でおしまいだ。だけど、先生は、攻撃の隙間を通いなれた通学路みたいに、するりとすり抜ける。
「うぅっ……ぁぁああっ」
 荻窪、それが気に入らないのか、さらに唸りを上げて両手を振りあげた。
 荻窪、どうしちゃったんだよ。俺が悪かったから、いつもの荻窪に戻ってくれよ。
「いつまで、遊んでいる気だ?」
 あの先生、気は確かだろうか? 僕にはこの期に及んで、荻窪を挑発しているように見えた。
 そんな事したら………
「うぅっ」
 ほら………荻窪が爬虫類のようにぬるりと首を振ると、本棚という本棚から次々と本が宙に舞い上がった。
 そして、本棚の本が空っぽになると、図書館の天井は凶器になったハードカバーで埋め尽くされてた。
「こ、これはちょっとまずいわね」
 先生が嫌な汗。だから、やめとけばいいのに。
 本は中で意志を持って、渦を巻く。ちょうど、台風のように。
 そして、図書館の中を嵐へと変えた。
 だんだん、僕の方にもビュンっと駆け抜ける本が迫ってくる。見た事ないけど、ヘリコプターの羽が喉元に迫ってくるようなもんだ。
 ついに一冊が僕めがけて飛んでくる。
 ああ、ゆっくりに見えるのは、きっと走馬灯って奴だ。ぶつかる直前に目をつむった。
  ドンっ
 冗談みたいな音、だけど、人めがけて乱暴に本がぶつかったら、そういう音がする。そんな想像通りの音が耳に届く。だけど、不思議と痛くないんだ。
 おそるおそる目を開くと、先生がへたり込んだ僕をかばうように壁に手をついて、かばってくれていた。
「知ってた? 先生って生徒守らないとだめらしいのよ」
「せ、んせい?」
 返事の代わりに、血が一滴、先生の額から落ちてきた。
「大丈夫ってきいた方がよかった?」
「いいえ、じゃなくて、はい」
 どうしたらいいかわからなくて、返事をするけど、余計に混乱してきた。
 先生は僕の混乱が治まるのを待ってなんかいない。
 僕のプレザーの襟を掴むと、そんな細い腕のどこにそんな力があるのかグイッと引っ張って、僕を立たせた。
「君、ダンス得意?」
 そう聞いてくる先生。先生の顔が僕の視界のほとんどを埋め尽くす。視線の端では、本の嵐がいまだに僕たちを狙っていた。
「あの、やったことないです」
「そう、じゃあ、深呼吸、吸って」
 とかなんとか会話している間も先生は、僕の体を押したり、腕を引っ張ったりして二人分まとめて本を交わしている。背中どころか、四方八方に目がついてるんじゃないのか?
 言われるまま息を吸った。
 その瞬間だ。びっくりして吸った空気が体の中から出てこなくなりそうだった。
 先生が僕の腰を抱いたんだ。
「はい、吐いて」
 言われるまま、すーっと吐きだすと、次の瞬間からメリーゴーランドだ。
 腕を取られて、腰を抱かれて、くるくると回りだす。初体験の僕は僕が回っているのか、本が飛び交っているのか判らなくて、目が回っているだけだった。ただ、不思議な事に本は一冊も当たらなかったのは覚えている。

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2013.03.30 | コメント(0) | トラックバック(0) | 黒の教典

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