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黒い頁の本「下」

・休み時間にこっそりどんな人か見に行った図書館の先生は普通の先生じゃなかった。
・先生が落とした本を友人の荻窪が見た途端、奇声を上げて腕を振り回したかと思うと、
先生が吹き飛んだ。本が荻窪の振り回した腕に合わせて、宙を舞う。
・かろやかに攻撃をかわしていた先生も僕をかばって直撃を受ける。僕はどうしたらいいんだ?


 気がつくと、やけに暗いところにいた。遠いのか近いのか日の光があたらこちらから筋になってこの闇に刺さっている。
「あはは、困ったね」
 先生の声。事情が良く読めない。そこが、倒れた本棚の下だと気がつくのに本のちょっと時間が必要だった。
「先生?」
「大丈夫かな?」
「先生、それ、僕のセリフです」
 先生は僕をかばって、本棚の下敷きになっていた。先生が挟まっているおかげで辛うじて僕が潰れずにいる。
 先生も何とか抜けようと、ときどきもがいているが、重たい本棚はびくともしない。
「本の攻撃防ごうと思って、本棚倒してバリケードにしたところまではよかったんだけどな」
「どうしてこうなったんですか」
「まさか本でバリケードが崩れるなんておもわないじゃない」
 そういって、先生はまた笑う。
「何が、とうなってるんだよっ」
「君、名前は?」
「飯田原(いいだわら)です」
「それは苗字だよ」
「この緊急事態に冷静ですね」
「君は、そんなにへんてこな名前なのかな? 覚えるのか大変そうだ」
「いや、そうじゃなくて………史鶴(しづる)です」
「それじゃあ、シヅル君。私の事はいいから、なんとか逃げ出してみてよ」
 あははと無理やり笑って先生は言う。
「え………」
 言葉より先に本棚が動いた。蓋のようになっていた本棚が取り除かれ、光が差す。
 ここから見える範囲には、本は飛んでいない。もしかしたら、荻窪は教室に戻ったかもしれない。逃げるなら今がチャンスです。
「先生、僕、助けを呼んできます」
 這い出しながら、先生に言葉をかけた。
「シヅル君っ、上っ」
「え?」
 次の瞬間、右の二の腕が熱くなった。
 A3版フルカラーでハードカバーの昆虫図鑑が僕の二の腕を打っていた。
「うっ、うぅっ」
 叫びでも、泣き声でもなく、僕は呻いた。痛みで体中が緊張して、肺の空気が喉で引っ掛かってでてこなかった。うつ伏せの体勢から、腕を動かさないようにうずくまった。
 痛い、熱い、自分の体がどうなったかわからない。こんな事今までに一度もなかったから、僕が今どうなっているのかわからない。
 薄く開けた視界の中で、荻窪が先生の上に倒れていた本棚を片手で跳ね飛ばし、先生の腕を掴んで吊り上げていた。
「う、あぁ、うぁぅっ?」
 吊り上げた、先生ほまじまじと見つめ首をかしげている。まるで不思議な道具を手に入れた猿のようだ。
「くっ」
 先生は倒れた本棚でどこかを痛めたのか、うめき声を上げた。
 軽いステップで本の連撃を交わしていた時の面影は、もう、どこにもない。
 きれにとかれたマーブルカラーの髪も乱れ、まくった腕には赤い打ち身の後が無数にあった。
 なんだよ、荻窪。いつの間にそんな力を身につけたんだよ。身に付けた力でなにやってるんだよ。
 僕にだって、僕にだって力があれば………
 視界の片隅に、ページを開いて伏せた本の姿が見えた。
 あれをしっかり見たら、僕も荻窪みたいな力が使えるのかな?
 左手が自然と伸びて、古い装丁の本に手をかけていた。装丁は紙やビニールではなく、なにか革のような触感だった。
「シヅル君、ダメよっ。ああなりたいのっ」
 それまで、力なくぐったりとしていた先生が宙釣りにされたまま、僕に叫んた。
 すごく近くで言っているはずなのに、遠くの音のようにぼやけて聞こえる。
 代わりに、僕の視線はその本にすべて集まって、こんなに酷い状態なのに本以外目にはいらなかった。
「本………」
 今までに触れた事のない触感のハードカバーを手に取ると、表に反した。
「黒、黒いページ………」
 それは、荻窪が言っていた通りのページだ。文字が見えない。塗りつぶされているのか。
 目を凝らす。遠くで先生が何か叫んでいる。
 もっと目を凝らす。本が宙を舞う風切る音が聞こえる。
「………う………」
 それは、黒いページでも、テレビの砂嵐でもなかった。
「う、うぅあわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 それは何重にも重ね書きされた文字、図形、形、絵………どれ一つとして知っているものでもないのに、一度目に入り始めると、目の中に黒い羽虫のようになった象形の類が嵐に舞う雨粒や木の葉のように目の中に飛び込んだ。
 文字は目に飛び込んだが、おさまらない。文字の洪水は僕の目の水晶体を満たして、あふれだし、脳髄にまで駆け上がってくる。嗚咽、悪寒、震え、体がすべて形象に汚染される。
 汚染されても、されつくしても、記された文字の半分も呑み込めていなかった。指の先、足先、髪の毛一本一本にいたるまで、形象という小さな生き物の集合体が僕の体を塗りつぶし、やがて、形象が僕の体を形作る。
 満たされすぎた記号は重なりあい、僕という頁は黒。
 僕という黒が出来上がり、形作られ、あふれ出しそうになる。
 でも、そうなる自分を自分としてまだ判る事ができた。
 声が聞こえた。
「「人は魂に意味を持って生まれて来るのだ」」
 深い、重い、男の人の声。でも、どこかやさしい。
 意味? ここにいる意味?
 でも、僕はしらない。僕がどうしてここにいるのか知らない。
 わからない。
 そう考えた途端、形象は指先から津波のように引いて、目から本に戻ろうとする。
 少し安堵、だが、引いた指先には、もう僕すらいなかった。
「う、うぅあわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 さっきと同じように叫ぶ。まるで、時間が巻き戻ったかのように。
 きっと、形象の波が引き切ったら、僕は消えてなくなるんだ。
 そう思ったら………
 そう思ったら、先生ぐらい助けたいと思った。
「シヅル君っ」
 先生の声、そう、これは先生の声。
「うぅ、あぁ」
 うめき声、これは荻窪。
 がれきの中で立ち尽くす。
 僕であって、もう、僕でないものがそこにしっかりと僕の形をして立っていた。
「オ、ギクボ、モウヤメヨウ」
 今まで、平然と使っていた言葉が使いづらい。
 だけど、新しい僕は急ピッチで忘れた記憶を脳からかき集めて、失ったしゃべるという機能を取り戻した。
「荻窪、やめようよ。授業が始まるよ」
「ぅぅう、ぅうわあぁぁぁぁ」
 荻窪は言葉を忘れたまま、叫び声を上げて、本の嵐を天井と僕たちの間に走らせる。
 本は巨大な流れとなって、流れが一つの生き物ののように頭の上でのたうつ。
「駄目だよ」
 僕は左手を軽く上げた。
「理解してないのに、そんな風にしたら………」
 僕は一体、何をどう理解しているんだろう。だけど、どうやって荻窪が本を動かしているのか、僕には「ワカッタ」んだ。
 本は僕の上がったところを見て、ぴたりと止まった。
「ああああああああぁぁぁぁぁっ」
 荻窪はひときわ大きな声を上げて、腕をさらに振りあげる。
 だめだめ、荻窪。そんなんじゃ、ぜんぜんだよ。
 荻窪の力を抑え込み、その合間に右の手で本棚を戻した。痛いけれど、二の腕の骨は折れていないらしい。
「おわりにしよう、授業が始まっちゃうよ」
 荻窪の乱暴な支配から、少しずつ本を奪い取り、立て直した本棚に戻してゆく。どういうわけか本の並んでいた位置まできれいに推測がついた。それほど成績が悪いわけでもなかったけれど、いつから僕の頭はこんなに高性能になったんだろう。
 荻窪は叫びもせず、いままで見た事のないような悪魔みたいな形相になって、先生を投げ捨てると、全部の力を僕にぶつけてきた。
「やっぱり、荻窪はすごね。野球部のエースだもんね」
 純粋な力比べだったら、やっぱり荻窪のほうがつよい。
 しかも、あんな状態だから、加減なんかお構いなしにやってくる。
「でもね、その手は離しちゃだめだったと思うよ」
 僕にかかった荻窪の力を動けないように、今度は僕が引いた。
 目の前で、荻窪の目にそっと視線を合わせて抱き寄せる先生の姿が飛び込んだ。
 きっと、何か荻窪を止める方法があるにな違いない。黒いページのせいで優秀になった僕にもどうやったら、荻窪を元に戻せるかわからない。
「生徒が悪い事をしたら、叱ってやらないと………」
 そういいながら、先生は荻窪の顔を抱き寄せる。
「え?」
 いや、先生の背中が見えるだけで、はっきりとみえないけれど………
 先生は荻窪の唇を奪った。

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2013.03.30 | コメント(0) | トラックバック(0) | 黒の教典

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